くすの木 8月号
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出会って方向転換。紆余曲折がありながらも、タマバエの研究をやっているうちに分からないことを明らかにしていく面白さを実感し、研究者の道に進みました。 佐賀に来て知ったのは、佐賀平野にしかいない淡水魚や有明海の魚、カササギ、トンボなど貴重な生き物があふれていること。子どもたちはもちろん、大人だって知らないことがほとんどです。人間は自然の恩恵を受けて生きているからこそ、少しでも多くの人に身近な生き物について知ってもらえればと、講演会や観察会などの依頼があれば時間が許す限り応えるようにしています。そういった活動には学生が同行することも多いです。地域社会とつながって、自分たちがやっている研究の意義を、世間一般の方に分かりやすく伝える術を身につけてほしいからです。自分たちの研究が最終的には人間の幸せにつながるんだということを、周りに理解してもらうことも大切です。それに研究ばかりでなく、様々な経験を通して人間的にも成長してほしいと願っています。 私自身が今後取り組みたいのは、一つは自分の研究を極めること。ずっとタマバエの研究をしていますが、最近、昆虫の中でも一番多様なグループであることが分かってきました。なんでそんなに多様なのか、生態系の中でどんな役割を果たしているのか、まだ解明されていないことを突き詰めていきたいです。もう一つは、せっかく佐賀にいるので、佐賀じゃないとできない生き物の研究に取り組んでみたいですね。(昆虫の夜間採集(ライトトラップ)の様子)〈インタビュー:大橋/文責:福地〉(小学生親子の自然観察会)2佐賀大学農学部 教授  徳田 誠さん1975年島根県生まれ。九州大学大学院で博士号を取得後、研究員として熊本、茨城、神奈川の研究所で勤務。九州大学助教を経て2011年より佐賀大学農学部准教授、現在教授。2022年より佐賀新聞で「生き物ヒトとなり」を連載中。様々な巡り合わせで昆虫研究の道へ 専門は、植物の葉や茎などに「虫こぶ」を作る昆虫の研究ですが、だからといって昔から生き物が好きというわけでもなく、ごく普通の田舎の子どもでした。転機になったのは、高校で生物部に入部したこと。先輩から「とくに活動はしていないし、入部してくれたら部室に荷物置いていいよ」と言われ、荷物置きを目当てに同級生5人と入部。すると、顧問の先生が「こんなに入ったなら活動しよう!」と、週末になると川に行って水生昆虫の調査をするようになりました。話が違うが、やっているうちに面白くなってきて、顧問の先生には「将来、昆虫の研究とかやればいい」とも言われましたが、正直そんなに虫が好きでもなかったし(笑)。むしろ、当時は急速な砂漠化が世界で広がっていたので、植物の研究で砂漠の緑化に貢献したいという思いがありました。 ところが、大学3年の時に選んだ研究室は昆虫。「やりたかった!」というわけではなく、人気の植物に対して昆虫を選ぶ学生が一人もいなくて、自分が入ることで話が丸くおさまりそうだったから。研究テーマは水生昆虫にする予定でしたが、大学4年の時、恩師となる湯川淳一先生(虫こぶを作るタマバエの研究者)と生態系の研究は         人間の幸せにつながっている 佐賀大学のシステム生態学研究室では、昆虫や植物だけでなく、ほ乳類や魚類、鳥類の研究も行っています。学生の主体性を尊重し、本人がやりたい研究に取り組むのが基本で、専門外の場合は、その分野の専門家と学生をつなぐなど、調査・研究に必要な環境を整えてサポートします。身近な生き物や佐賀の自然を知ってほしい身近な生き物や佐賀の自然を知ってほしい

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